THE WELBECK GALLERY

CONTROLHOMETHE WELBECK GALLERYDIARYPRODUCTSSHOPPING CONTACT

11/27
Sat

READING AUTUMN 22 / series 2010 / 肖像画で読み解くイギリス王室の物語 + 非対称情報の経済学 / 光文社新書
CATEGORY:GALLERY

最初に言い訳をするとここ数ヶ月あまりに移動が多く、まともに環境の整ったところで書く余裕がないので今年の読書の秋もこんな形で終わってしまうことをお詫び申し上げたい。


移動が多い時は新書が何かと便利だ。しかし厄介なことはモノによっては一移動(例えば新幹線一回分など)で読み切ってしまうものもあり、その場合、今度は書店に行く時間が取れないという事態に陥る。家にも戻れないのでAmazonも使えず。なので最近はまとめ買い→ツンドク(積んでおく)というパターンが多い。


さて、今回ご紹介するこの2冊どちらも光文社新書からリリースされているものだ。光文社新書の特徴はハードカバーと既存の新書の間くらいの性格であること。教科書レベルの内容+というところだと思う。この+の部分程度が今の私の生活にはちょうど良い様で、忙しくなって書店へ行くとどうしても光文社新書にハマる状況だ。

『肖像画で読み解くイギリス王室の物語』はノルマン王朝ウィリアム1世(1066年)からウインザー王朝エリザベス2世(〜現在)までを主にナショナル・ポートレート・ギャラリー(ロンドン)の収蔵品と王室収蔵品を中心に歴代の王または王室家族の肖像画を紹介しながらその歴史物語が展開されるという内容である。これは非常によくまとまった読み物で、実際に新幹線1回分で読み切れる内容だった。歴史の記述というものは出来事とその背景を丹念に紹介することが求められるので、非常に根気のいる作業だが、逆に緻密に紹介しすぎると、その長大な歴史物語を前にしてほとんどの読者が最後まで読むことを諦めてしまうという問題がある。ほどよいテンポとそれを支えるトピックの選択作業。著者の君塚直隆(神奈川県立外語短期大学教授)の英国史理解におけるフレームワークが光る一冊だ。

続いて『非対称情報の経済学』こちらは同じボリームの新書でも一冊を読むのに結構な時間を要する。そもそも経済学における非対称情報という問題を理解する必要があるのだが、その前段階としてアダム・スミスによる「神の見えざる手」の復習をしなければならない。もちろん、その点についてもきちんと同書で触れられているので、この1冊から始められるのだが、ある意味マニアな一冊であると言える。しかし、その内容は中古車や中古住宅購入時にある当たり前の話であったり、「保険」という金融商品のしくみであったりと、このダイアリーの読者のほぼ全員が避けては通れない問題を取り扱っている。それこそタイトルだけで旬な話題を売ろうとする「ありがちビジネス書」を読むくらいなら、この1冊でもっと基礎的なものが学べるという内容だ。その点、スティングリッツの翻訳では日本の代表者的存在である早稲田大学の薮下史郎の「下地」が効いている。「1000を知って1を語る」それをもってしての強力な説得力が一冊を貫いているのだ。


よくある時期に聴いていた曲を耳にすることでその時期を思い出したりするという経験があるが、私はこの2冊から1997年夏から冬の頃を思い出した。非対称性情報については当時英語の講義でお世話になっていた「保険論」の先生を思い出し、英国王室についてはその年の冬に論文の方向性について指導いただいた英国人の恩師を思い出した。1995年から1997年は今の私の人生に大きく影響を及ぼすことになった出来事がたくさんあったが、たまたま書店の棚の本が今に続くその時の「初心」とも言える想いを思い起こさせてくれたのだ。

READING AUTUMN。読書の秋。読書は単に知識や作品を通じての感動を得るためのものではない。書店の棚では何一つモノを言わない本達とたまたま出会い、また読み進めることで、または読み終えることで自分自身気がつくことがたくさんある。そんな本との生活や人生について、もう少し早く知ることができれば、もっと私の人生は変わっていたかもしれない。そんなことを考える今年の秋の読書であった。