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宗教と科学の接点 / 河合隼雄 / 1986 / 日本
CATEGORY:GOVERNOR

河合隼雄(1928年6月23日 - 2007年7月19日)。ユング派の心理学者。心理療法家。天理大学教授から京都大学教育学部教授、国際日本文化センター所長を経て文化庁長官。



この『宗教と科学の接点』は彼が日本における臨床心理士資格をなんとか公に認められたものにしたいと強く感じていた頃の1986年に著されたもので、その後1988年に日本臨床心理士資格認定協会の設立に漕ぎ着けたことを思えば、この一冊にかけた彼の情熱を非常に強く感じることができる。とは言え、元々は雑誌『世界』の同タイトルの連載記事に訂正加筆を行ったものであることからすれば、この一冊が強烈な野心を持って書かれたものではなく、心理療法家、河合隼雄らしい、彼自身「常にその事を想うことで目標に迫る」の中にあった数年間をかいま見ることができる一冊とも言えよう。

私がこの本と出会ったのは学部時代。教科書としてである。当時、当然一度は読んでいるはずなのだが、今回驚いた事は「よくこれだけ複雑な話を忍耐強く読めたな」(これは同時に本当に当時の自分がこの本を理解していたのか?という疑いを含む。当然今回もちゃんと理解できている自信はない。)ということと、今現在の私のクリスチャンとして思考パターンを見事に表現しているということであった。

キリスト教は西洋から日本にもたらされた自然科学に大きく影響を及ぼしている。この本の中で河合はキリスト教における唯一神信仰は、「真理は一つしかない」という概念形成に影響をもたらしていると言う。私なりの解釈でより簡単に言うならば、すなわち「正解はひとつだけ。ただし、正解がわからない状況においてはその時点での最良の解が存在するが、あくまで最良の解は正解により近づこうとするものでなければならない」という考え方である。

私は日頃から実際にこの思考パターンで動いている。ただ、問題が難しくなればなるほど正解が存在しないため、その時点で考えられるいくつかの最良の解から選択可能なものを選ぶということがほとんどだ。

例えば、相談を受けたりまた自らある議論の場に参加する場合、どちらかと言えばより多くの最良の解が出る事を期待するし、いくら説得力に富んだ有力な案が出たとしても、それが今採用すべきベストなものかどうかを決定するには、あらゆる可能性を時間の許す限り検討したいと思う。

ここには、「そう簡単に正解は見つからない」という想いと、私自らの発案も含めて「ある思い込みによる組織や人の暴走を防ぎたい」という意思が働いているのである。よく考えてみると、この2つについてはもし結果が全く異なったものであると後で知った場合に、最もみじめな想いをするものとも言える。

ここで断っておきたいことは、こうした議論ができるのはあくまでその目的や目指す方向が一致している場合であるということだ。

ここまでの話を聞いて皆さんはどう思うだろうか?
実際に多くの人にとって、こうした姿勢や物事の進め方は至って当たり前のこととなっていると思う。もちろん、中にはもっと強烈なリーダーシップのもとで与えられた任務にただ邁進したいと考える人もいるかとは思う。

重要なことは、本来日本で育った者としてはあまり意識しないレベルで西洋起源のプロトコルが当たり前になっていることである。

私を含め、そんな日本で生活する我々にとって、宗教の問題は一部の人を除いて日々の生活と密着している訳ではないと思う。しかし、宗教はあらゆる部分に影響を及ぼしており、それは宗教とは全く反対側に置かれていると思われている科学にも及んでいる。

写真にあるようにこの本の帯には「20世紀末の、そして21世紀の最大の課題」とうたわれているが、これまで私たちが知らなくても済んでいたことが、そろそろ済まなくなってきているのかもしれないとあらためて感じた次第だ。



これは決して「宗教を信じましょう」と言っているのではなく、「宗教を知るということくらいはいいのでは?」というニュアンスでとらえていただければありがたい。

河合の表現を借りれば、熱く「信じる」を語るとクールに「知っている」を語る。このバランスについて、考えてもよいのではないだろうか。






『宗教と科学の接点』
河合隼雄 1986年5月15日第一刷発行
岩波書店

ISBN4-00-001026-3